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淡い夢のなかで…

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狂い桜と消えた鬼(阿蘇芳×涼)



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狂い桜と共に消えた鬼は、どこだ。

鬼は、黒い影となって、櫻の花びらを舞う廻廊を奔り回っていた。
それを追いかけて、最後、両腕で、捕まえたと思ったら、櫻の花びらと共に消えてしまった…

ここはどこだろう…


人混みの中だ。

男はハンチング帽やカンカン帽をかぶって、扇子や団扇であおぎ、
女は浴衣の襟足や結った髪気にしながら、みんな笑顔だ。

…いつの間にか、鬼を追っていて、
どこかの小さな町の権現様を祀るお祭りに迷い込んだみたいだ。

石段には半被姿の少年たちが、横笛で器用にピ~ヒョロヒョロと吹き流し、
太鼓の音がどん、どんと心臓までも打ち鳴らしてくる。

赤いぼんぼりに笑顔で笑うはっぴ姿の人々は、みな、幸せそうだ。

俺だけ。

俺だけ、こんな傷だらけで、なにやってんだろう。

 

「うふふ。

どこのお兄ちゃん?帰り道を忘れたの?」

いつの間にか、目の前には、林檎飴を持った背の小さな少女が立っていた。

でも、眼は三日月のように細く、炭を塗りたくったような真っ暗な顔には、
赤い瞳が光り、口元もつるはしの形みたいに、奇妙に笑っている

「お兄ちゃん、露店で、蝶をもらったでしょ?ギヤマンでできてるみたいでしょう?
うしろに隠しても、無駄だよ。闇に光ってるから、すぐわかるんだよ。
鱗粉が目に痛いよ。その蝶、ルリタテハっていうんだよ。青く光るの」

目の前を、青い蝶がきらきら待っている。暗闇のなかたしかに光ってる。

「ねえ、阿蘇芳。

阿蘇芳っていうんだね、お兄ちゃんの名前は。なんだか仰々しい名前だね。

お兄ちゃんとは、昔会った気がするよ

帰り道を忘れたの。そんなのいいじゃない。私と遊ぼうよ。」

そういって、暗黒のような顔をゆがめて、にたりと笑ったような気がした。

ずん。と体が重くなって。

立てない――――

闇に堕ちてゆく――――

闇の底。

 

阿蘇芳。

少女は笑う。暗黒の顔をして。

鬼だ。

いつの間にか、鬼を追いかけていて、逆に襲われていた。

 

「ねえ、あそぼ?


阿蘇芳、あそぼ?」

きゃっきゃっきゃあはは

鬼が、笑ってる――――

さっき負った傷が、膿んでいる。その傷口から、血が、とめどなく、血が。

どくどくどく

もう、立てない。


「阿蘇芳、ハゲるよ」


「うっせ、襲うぞ」


そんな会話を、涼と最後した気がする。
涼の口癖なのだ、「阿蘇芳、ハゲるよ」という言葉が。

馬鹿にしてんだ。

鬼も涼もなんもかんも。

以前も、笹の葉を風で操ってカッターみたいにして襲ってきた鬼がいて、
ぼろぼろの衣服で帰ってきたら、涼がくすくす笑いながら

「お仕事大変だったね。
でも依頼人は可愛い男の子だから楽しかったでしょ。
なにかいいこと、してもらった?」

とか言って、心配の一つもしてくれやしない。

心配の一つも…

「阿蘇芳、大丈夫?」

涼?

俺の死に際にようやく、会いに来てくれましたか。
もう体の半分以上が闇に飲まれてるけど、まだ生きてっぞ。

いつみても綺麗な顔してやがる。死ぬならその小さい尻に一発ぶちこんどきゃよかった。
とかなんとかよそ事考えてると、目の前の涼はすぶすぶと闇に沈み込む俺の手を取った。

涼…なんだお前、泣いてるのか?

「阿蘇芳…負けるの?」

「俺は…負けねえよ」

「阿蘇芳、僕をおいて行かないで」

「おれは、どこにもいかねえよ、いつも、お前の隣だ」

「そんな強がり言わないで、僕が助ける」

そういうと、涼はがしっと俺の顎を取り、熱烈なキスをしてきた。

そして、ぽつり、と俺の頬に、涼の涙が落ちる。
それは、暖かで湿った感じがした。

「死ぬ前に、抱いてよ、阿蘇芳」

「お前なんか抱けるかよ…」

涼はぼろぼろと大泣きしてた。俺が死ぬから…だったら嬉しい。


「せっかく涼がその気になったんなら、俺もこんな泥沼でもがいてる場合じゃねえ!!」

闇の泥沼から足を引っこ抜くと「うおおお」と雄たけびながら立ち上がった。

 

「なんだ、お兄ちゃん、まだこの世に未練があるんじゃない」

暗黒の少女が、いつの間にか横に立っていて、そうぽつりと言うと、

突然、

さああ

と木々がざわめいて、

いつのまにか、俺はすかんと晴れた、
真昼間の権現様のいる社(やしろ)の真ん中に突っ立っていた。

「涼は…あれ?いない」

じゃあ、さっきのは鬼の見せた妄想?

「っしゃあああ!涼帰ったら続き…ないだろうな。
またハゲるぞってくすくす笑いながら言われるだけだな」

俺はがっくりとひざを地面につくと、
鬼を気配がなくなったことを察して今回も酷い闘いだったと、と思った。

 

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ちょっと薄暗い感じですが、いつもと阿蘇芳と涼の関係性が違っています。
これの漫画が描きたいので頑張りたいと思います。

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